とうさん寸前   画 Sachiko Tanabe

お父さんのリサイクルではありません

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更新履歴
本論は2000年1月にアップしました
2005年4月12日、'01年3月21日アップのグラフを補正し、追加しました。
2001年市長選挙の灘区選対ニュースは削除しました。
「お父さんをどうとりかえるのか」
なぜ、こんなタイトルなのかとよく聞かれます。
「市長をお父さんと呼ぶのは不適切ではないか」
おっしゃるとおりです。そんな意味で「父さん」なのではりません。

リストラにあって取り替えられたお父さんの悲劇も見てきました。いつ取り替えると「得かソンか」そんな女性週刊誌の年金特集も見ました。娘が成人して、そんなことを考えているのではないかと怯えているわけではありませんが。

自治体の倒産

神戸の財政を分析すると、倒産もあり得ない話しではありません。

自治体のとうさん、迷惑です

 

普通会計ベースで見た
神戸市と京都市の比較

4年前に、人口が同規模で同じ関西にある京都を、財政比較検討の対象にしました。大震災の神戸と他の都市を比較するのは無意味だとおっしゃる方もいます。京都が理想的な財政運営のできているまちだとも思いません。

しかし、埋めたてを抜きには語れない神戸の財政と、港を持たない京都の財政は、戦後ずっと好対照であったことは間違いありません。財政当局がバブル崩壊に気づかなかった'93年という年を分析の出発点にしました。すでに今日の姿を十分予見することができる財政状態をそこに見ることができます。

4年前から今日までの間にも、私たちが指摘した神戸市財政の破たんは、一層明らかになっています。

震災前・バブル崩壊後 '93年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

震災後・復興特需3年め '98年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

災害復旧費16億円の年  '99年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

借金返済と建設事業に民生費の2倍強
'00年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

建設にまわすカネがない '01年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

民生費も伸びる '02年度

大都市比較統計年表(横浜市のサイトより)普通会計決算
法人市民税は歳入収入済額/民生費は目的別/他は性質別

借金返済2千億の大台 '02年度

復興事業は建設事業であり、'03年度のように、公債費、民生費がそれぞれ2千億円、建設投資は1千億円という時代になりました。地元の建設業者が倒産し続ける理由が明確です。

過度に第2次産業(製造業と建設業)に依存してきたことが、「正常値」を通り越して、全国平均より第2次産業のシェアが少ないという異常なところに立ち至っています。

神戸市民経済計算(神戸市企画調整局'05年3月16日)や、「きょうの井上力」から転載したグラフですが、市民経済のまともな成長を阻害するところまで、公共投資を圧縮し(せざるを得ないだけですが)、かつての「公共事業の町」の見る影もありません。

普通建設事業費が減っているのは、京都も同様ですが、それでも神戸の方がまだ絶対額が多いというのも、皮肉としか言いようがありません。公債費の膨張との関係で見ると次のとおりです。

「借金して将来の蓄えを食い尽くしてしまった」まち、そしてその結果として、法人の収益がさらに落ち込んでいくという最悪の状態を下の3つのグラフからご覧ください。

データは大都市比較統計年表の各年度版から。元の資料がお入り用の方はchikara@cg.mbn.or.jpまで。または手紙やハガキでご請求ください。

神戸市灘区天城通3-5-19 井上力事務所気付

 以上、'05年4月12日

も  く  じ               

右の数字はA4パンフレットのページ数です

10年間で5,130億円足りないぞと言われています 1
年収は290万円なのに毎年130万円のローンの返済をかかえている 2
神戸の地震は89年に起きたんや 3
年収が290万円なのに860万円の支出があることが自慢だった 4
  予算規模=仕事量か 4
  税源のないことがなぜ誇りなの? 5
  反省あるの? 5
過大投資の当然の帰結としての膨大な借金 6
疑問符だらけの「震災関連事業」 7
世に出された国の復興委員会の本音 8
人間優先に変えない限り借金地獄から抜け出せない 9
伊賀隆先生に問う。師の教えに背くお気持ちはいかがですか(未)  
緊急提言 10

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表やグラフだけご覧になって万事を知る方はこちらへどうぞ
表@ 普通会計ベースで見た10年間の普通建設費と災害復旧費  
グラフ1 神戸市の普通建設事業費の推移  
表A 人口がほぼ同じ神戸と京都でどちらが「仕事をよくしている」か  
歳入・市税収入でも、神戸、京都両市の体質が比較できる  
表B 公営企業の投資が市税収入を上回るのは神戸だけ  
???疑問符だらけの震災関連事業???  
神戸市一般会計収支試算の「前提条件」  

 

10年間で5,130億円足りないぞと言われています

 「震災が原因で財政危機が生じた」として、「新行政システム」という「100項目の合理化案」が提案されています。神戸市一般会計の1年間の支出は8,600億円、借金残高2兆円(特別会計をあわせると3兆円)。支出のうちの借金返済は1,300億円、税収は2,900億円です。このままでは、10年後に5,130億円もの「財源不足額」が出ると、神戸市は説明しています。

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年収は290万円なのに毎年130万円のローンの返済をかかえている

 家計に置き換えてみるとお父さんの手取り年間収入は290万円なのに、130万円ものローンの返済をかかえている状態です。「お父さんの手取り月収が29万円なのに、毎月ローンの返済が13万円ある」というと、もっと身近に感じられるかと思います。

 これだけを聞くと「大変だなあ」と思わざるをえません。この家から逃げ出したいと考えている人もいます。でもみんなが逃げ出せるわけではありませんから、もう少し掘り下げてこの家計の状態を分析してみましょう。

 「なんも、お父さんが好きでした借金とちゃうんや。そら、おじいちゃんの代から、ちょっと借金が多いとは思うてた。『最小の支出で最大の幸せ』いうて、ケチなおじいちゃんは家族から集めたお金も使わんと、新しい会社つくったり、土地買うたり、事業に投資したり、貯めたり。福沢諭吉が言うた学問のススメの向こうを張って、借金のススメ言わはってン、そら借金多すぎた。せやけど、僕の代になってからは『最小の支出』いうとこが気に入らんかったから、それにお母ちゃんも『よそではみんなしてる』いうて『吐き出せ貯金(基金)』てなこと言うて。

 だいぶ使たんや。いまも、これおじいちゃんには内緒やで。貯金を使うだけのつもりやったのに自動的に借金が増えてしもたんや。おじいちゃんの教えを借金増やさなあかんという点では、ちゃんとお父ちゃん、守ったんやでエ。バブルがはじけたころに、コラあかん思たから、親戚の人や専門家、おまえらにも集まってもろて、手エ打とうとしたやないか。あのときは10年後に450万円足らんようになるちゅうやつやった。いよいよ家族会議を開かなあかん、連休明けからその仕事や、そう思たその連休明けにあの震災や。震災さえなかったらなあ…513万円も足らんようにはならへんかったんや。3,000万円のうちの2,000万円は震災ででけた借金や。せやから、いままでどおりにはいかへんのや」

   お父さん! ウソ言うたらあかんがナ

表@ 普通会計ベースで見た10年間の普通建設事業費と災害復旧費  単位:億円

  88(S.63)年度 89(H.1)年度 90(H.2)年度 91(H.3)年度 92(H.4)年度 93(H.5)年度 94(H.6)年度 95(H.7)年度 96(H.8)年度 97(H.9)年度
普通建設事業費 1,758 1,784 2,009 2,600 2,965 3,107 2,387 4,018 4,409 3,740
災害復旧費 4 3 0 2 2 3 80 2,446 2,095 207

 表@のように、笹山幸俊が市長になって(89年10月)から、普通会計ベースで見た普通建設事業費は、バブル景気そのままにうなぎ上りに多額となり、表にはしませんでしたが、一般会計予算額も88年度の6,000億円台から一気に9,000億円台へと膨れ上がりました。「震災さえなかったらなあ」というお父さんの残念そうなポーズとは裏腹に、実体は、震災で神戸市財政の矛盾が隠されてしまったということです。「震災があらわにした…」と、私たちはよく語ってきましたが、神戸市の財政については市の幹部が「震災が隠してくれた…」と考えているにもかかわらず、分析と批判が不十分でした。本気で「お父さんを取りかえる」議論をしなければなりません。

 

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神戸の地震は89年に起きたんや!

 表1のうち、普通建設費だけを年度別にグラフに表したものがグラフ1です。財政が大変になったのは震災後だと神戸市は説明しています。新行政システムを提案するにあたって、神戸市が発表した「神戸市財政の現状」では、いきなり「震災関連事業費と財源」という見出しがあって、次のように書かれています。

 震災は、市民の生活支援、公共施設の災害復旧、再開発や区画整理等の復興対策など、本市に巨額の財政需要をもたらしました。平成6年度から11年度までの震災関連事業費の累計額は、全会計で2兆3,684億円、このうち一般会計では1兆8,645億円となり震災前の年間予算の約2倍もの規模に達しました。

 しかし普通建設費で見る限り、グラフが示しているように、急上昇を始めたのは、震災後ではありません。90年度からの上昇曲線は、96年度までほぼまっすぐ上がり続けているではありませんか。

 のちほど詳しく分析したいと思いますが、「通常事業」と「震災関連事業」という分類や、震災直後に幹部が街に出ず、庁内にこもって行った「継続事業」と「見直し・凍結事業」という分類は、財政状態を正確に表現する上で、的確な分類とはいえません。「通常」(震災前)時から計画があって、未着手だった事業が「震災関連事業」として国に採択されている例はきわめてたくさん見受けられます。 

 ついでにいえば「神戸空港」は、このとき「継続事業」に分類されました。役所ことばで理解に苦しみますが、「通常事業で、震災後、継続事業とした神戸空港は」、「神戸の復興に欠かせない」のだという説明が行われます。藤原台の仮設住宅へ笹山市長が出向いてはじめて「ふれあいトーク」に臨んだとき、Sさんという自治会長に、こう答えて煙に巻きました。会場の外には被災者連絡会が交渉を求めて100人近くピケを張っていました。

 数字を正確に扱うためには、普通会計ベースで普通建設費の推移、あるいは「民生費」や「災害復旧費」の推移を見る必要があります。

 棒グラフが急上昇を始めた90年度といえば、笹山幸俊が市長に就任して初めて編成作業を行った予算が90年度予算でした。

 「おじいちゃんからお父さんに代が変わって、みんな、これまでの息が詰まるようなおじいちゃんのやり方への反発から、使た使た。1年目は1割増にあたる20万円ふやし、2年目はいっぺんに3割60万円増や。200万、260万、290万、310万…、お父さんの代になってから5年でおじいちゃんの頃の2倍や。所得倍増計画の時代でも、こんなことはなかったんや。だれかが家計の分析しよったら、『地震は89年やったんですか?』って聞きよるやろな。それでのうても、最近は家族のなかにも人災やゆうて騒ぐのがおるのに・・・」これはお父さんの独りごとでした。

 ところで、この一家の年間支出は860万円です。そして10年後には「513万円足りんようになる。なにしろ貯金はもう底をついた上に借金が3,000万円もあるんや。どうすんのンや。今までどおりにはいかへんド」と、お父さんはわめき立てるばかりです。

 関西弁は柔らかですが、ほとんど脅迫と泣き落としです。こんなときお母さんがしっかり者というのが通例ですが、なぜか物分りがよくなって。…「どこの家でも問題になっているリストラやのうて、地震が原因やとお父さんが言うんやったら、協力したげなあかん。お父さんを取りかえるやなんて、人聞きの悪いこと、ウチはいやや。もし、出ていけ言わはったらどうすんの。このトシで」お母さんも、ちょっとおかしくなっています。

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年収が290万円なのに860万円の支出があることが自慢だった

 「今までどおりにはいかない」。もはやお父さんの口癖ですが、実は今なお、290万円の手取り収入で860万円の支出があることを自慢しています。

 神戸市は年4回、『財政のあらまし』というパンフレットを作成していますが、これには毎回、「少ない市民負担」というページがあって、政令都市の比較をして、予算額と市税収入を棒グラフにして並べています。税収の割に予算額(予算規模)がどの都市よりも大きいのが神戸市で、「市民負担は少ないと言えます」と書いてあります。ですから私たちから見れば、今やお化けのように巨額に思える予算額(支出額)ですが、今でも、まさにこのことが自慢の種なのです。いまは、その自慢の種に悩まされて、「これまでどおりではいけない。何かをしろ。何とかせえ」と職員や市民に迫っているのです。

予算規模=仕事量か  「予算規模が大きいこと」を、笹山市長や神戸市幹部は「仕事をしている証拠」だといいます。「支出が多い」ことが、どうして「多くの仕事をしている」ことになるのでしょう。まず、ここに大きな疑問があります。これは解明するべき課題です。表Aは、(94年度では決算ベースで震災の影響が現れるため)震災前の93年度の、一応、バブル崩壊後ですが、神戸市と京都市の予算総額の比較です。神戸市の予算規模は、一般会計では京都市の1.4倍、公営企業特別会計では約2倍です。ただし、民生費では、ほぼ同じです。

 

表A 人口がほぼ同じ神戸と京都では、どちらが「仕事をよくしている」か

           1993(H・5)年度決算 歳出  (単位:億円)

  普通会計歳出額 特別会計総額 企業特別会計総額 普通会計歳出のうち人件費 同、民生費 同、普通建設事業費 同、公債費 同、貸付金
神戸市(A) 9,688 4,835 6,134 1,330 1,472 3,107 1,277 1,389
京都市(B) 6,719 4,694 3,096 1,290 1,574 1,432 701 792
(A)÷(B) 1.44 1.03 1.98 1.03 0.94 2.17 1.82 1.75
特別会計は両市とも15会計 公営企業は神戸市8会計、京都市5会計
93年度を選んだのは、決算ベースで震災の影響が現れない震災前のデータを見るため
普通会計歳出を構成するのは、人件費など記載のもののほか、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、災害復旧事業費、失業対策事業費、積立金、投資及び出資金、繰出金がある

 

  なお、歳入・市税収入でも、両市の体質が顕著に比較できる  (単位:億円)

  普通会計歳入額 市税総額 個人市民税 法人市民税 固定資産税 市たばこ税 特別土地保有税 都市計画税 事業所税
神戸市(A) 9,688 2,951 949 328 1,150 79 29 261 92
京都市(B) 6,719 2,542 1,028 326 850 90 28 214 67
(A)÷(B) 1.44 1.16 0.92 1.00 1.35 0.87 1.03 1.21 1.37
市税を構成するものは、この他軽自動車税などがある
税源のないことがなぜ誇りなの?  さらに、「市税収入が(相対的に)少ないこと」は、「市民負担が少ないこと」と同義語でしょうか。市税収入が少なくても、起債などで歳入を増やせば、予算規模は大きくなります。起債は「市民負担」ではないという証拠はあるでしょうか。使用料や手数料は、「市民負担」ではないのでしょうか。「諸収入」のなかにちりばめられている様々な費目のなかに、「市民負担」は、ないでしょうか。国や県の「支出金」という神戸市の歳入も、「市民負担」ではないと言いきれるでしょうか。市税はたしかに「市民負担」です。しかし、「市民負担」にもいろいろあります。

 加えて、神戸市はこれまで、大規模な埋め立てをともなう開発事業や再開発・区画整理、あるいは投資を行う理由として、「税源の涵養を行う」としてきました。戦後半世紀、原口、宮崎、笹山と、市長三代にわたる「税源の涵養策」の結果として、50年たってなお、「市税収入が少ない」ことを、ここでは「誇り」にしているわけで、これはまことに奇妙な話だと言わざるをえません。

反省あるの?  成長神話とインフレ待望論に基づく起債主義、そして世代間の負担公平化のためと称する、「適債主義」(前野助役)は、神戸市財政運営の基本でした。新行政システムを提案する前に、まずこの反省があるのかないのか、これを明らかにするべきです。そうでないと、職員と市民、そして議会がどれほど幹部に協力しても、また悲劇は繰り返されてしまうのですから。反省しているかのように見せながら、実は借金を震災のせいだけにしてしまい、まったくと言っていいほど、反省を見出すことができません。

 神戸空港(3,140億円+α)、六甲アイランド南(5,600億円+α)などの開発事業は、神戸市総路線の象徴です。表Bは、それを雄弁に物語っています。

 

表B 公営企業の投資が市税収入を上回るのは神戸だけ 93年度  単位:億円

  公営企業全会計の資本的支出() 一般会計の市税収入(B) (A)÷(B)
札幌市 1,489 2,743 54
仙台市 925 1,800 51
千葉市 309 1,680 18
東京都 12,029 40,571 29
川崎市 920 2,718 33
横浜市 3,519 7,112 49
名古屋市 2,190 4.951 44
京都市 1,543 2,542 60
大阪市 1,918 7,271 26
神戸市 3,500 2,951 118
広島市 843 2,123 39
北九州市 434 1,564 27
福岡市 1,079 2,336 46

                 東京都の「市税」は「都税」

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過大投資の当然の帰結としての膨大な借金

 お父さんは、ことあるごとに言います。「家計の本体が危ないのンや。僕が投資をしてきた事業は健全や。適正な投資や。とくにひいおじいちゃんから引き継いできた埋め立て会社は今も花形企業や。財布は別々なんやデ。そこだけはっきり覚えときヤ。ごちゃごちゃ言うんやったら、本体の一大事について言うてみい。よそもんと一緒になって、赤字やのに投資するな、とばっかり言うて」。

 花形企業という埋め立て会社は、たしかに財務体質は健全です。公権力を使って公有水面や、山林原野に手を加え、売り飛ばしてきたのですから、当然です。しかしこの先、ずっと健全かというとポートアイランドU期の惨憺たる売れ行きに象徴されるように、あるいは、削る山も埋める海も、もうないことからも明らかなように、お先は真っ暗です。六甲アイランド南と神戸空港は、だから「希望の星」なのです。斜陽の「花形企業」にとって。「お父さんだけ」にとって。

 

 これまで見てきたように、建設費が群を抜いて多額であること、そして、公営企業の投資額も多額であること、そしてそれらが市税収入、つまり自治体の「身の丈」を超えたものにひとたびなるや、本体の財政構造も借金地獄に陥っていきます。

 早川鉦二先生(愛知県立大学)が解説されているとおりです。国の補助金、そして起債承認、さらには公債償還にあたっての交付税算入など、自治体財政が借金漬けになる地獄への高速道路は国の善意で舗装されています。人件費や民生費のために借金をすることを国は許しませんが、ハコモノを造るためなら借金は容易でした。自主財源であり一般財源である市税をはるかに超える建設投資が可能となったカラクリは、同時にこれ以上借金できない限界へと転がり落ちるカラクリでもあります。

 起債制限を受ける寸前まで、この「国の善意」で敷きつめられた道をだれよりも速く走りつづけたのが神戸市であり、したがって誰よりも早く地獄へ到着したのが神戸市でした。4,530億円の財源不足を示し財政再建が必要だと、地獄を見て悲鳴を上げたのは、震災の直前でした。

 そして震災後は先に引用したように、あたかも震災前には借金がなかった自治体であるかのように振るまい、かつ震災を理由にして自治体リストラを強引に進めようとしています。

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疑問符だらけの「震災関連事業」

 3ページに引用した神戸市の「神戸市財政の現状」は、震災後、通常事業をほぼ震災前と同様に続け、その上に生活支援、復旧、復興事業が上積みされたと述べています。その額、実に6年間で2兆3,684億円、一般会計だけでも1兆8,645億円だというわけです。そしてそれらの財源は国庫支出金と市債であったと。

 市会に提出した「震災関連事業一覧」から、詳細にこれらの事業一つひとつを、どう震災関連であるのか検証したいと思いますが、まず、一般会計と特別会計のうちで金額が1事項で100億円を超えるものについて概観します。(単位:億円)

企業会計については省略していますので、合計数字が異なります

市役所が行った分類 事業名 金額 100億円未満の事業も合わせた合計 ?の計
生活支援 災害援護資金貸付  776  
生活支援 災害救助 472    
生活支援 災害弔意金・見舞い金 123    
生活支援 仮設住宅撤去・現状復旧 162    
  生活支援 小計 1,533 1,897 766
災害復旧 企業会計等繰り出し  291  
災害復旧 がれき等災害廃棄物処理  1,553  
災害復旧 土木施設  899  
災害復旧 阪神高速道路  253  
災害復旧 市営住宅等  716  
災害復旧 海岸施設  232  
災害復旧 学校園  307  
  災害復旧 小計 4,251 4,924 4,251
復興 震災復興基金への出捐・貸付  3,000  
復興 第10次クリーンセンター建設 325  
復興 震災復興特別資金融資  227  
復興 復興支援工場の建設 ? 106  
復興 復興区画整理  1,851  
復興 復興市街地再開発(一般会計)  501  
復興 東部新都心整備  412  
復興 復興関連街路  361  
復興 災害公営住宅建設 1,497    
復興 従前居住者用住宅整備 682    
復興 災害復興特定優良賃貸住宅整備  220  
復興 六甲アイランド高校整備  176  
復興 東部新都心小・中学校整備  133  
復興 復興市街地再開発(特別会計)  447  
  復興 小計 9,938 12,511 7,759
合計   15,722 19,322 12,766

 ?をつけたもの、疑問を提示したものは、25項目のうち、20項目におよびます。?をつけた理由は

@貸付金等で、いずれ返ってくるもの、

A震災前から計画があったもの、および計画変更したもの、

B震災がなくてもいずれ計画されていたであろうと思われるもの、

C企業等に計画そのものや設計を丸ごと委ねたために、事業費が膨大となったもの、

D市民の反対運動を押し切って強引にすすめたもの、などです。あるいはそれらのいくつかの疑問を併せ持っているものです。

@は、復興基金への出捐や災害援護資金貸付など、一目瞭然かと思います。

Aは、東部新都心関連のものや、何十年も前に都市計画決定した街路事業を震災後、にわかに事業認可を受けたものなどが代表例です。

Bは、特優賃や市営住宅、学校園の災害復旧などで、震災前から市民の要求があり、あるいは、補修を一年遅れにしてきた結果、震災被害を拡大してしまったものが随所に見られます。

Cは、がれき処理や道路補修です。地域をたてよこに区切って業者に割りふったため、見積もり段階から業者の言いなりというか、裁量権まで業者が握るというとんでもない事態が被災地を覆いました。会計検査院の指摘でがれき処理の超過負担が発生したことはあまり知られていません。

Dは、区画整理と再開発です。

さらに阪神高速道路のように建設時から欠陥があって倒れたのではないかと指摘されてきたものや、仮に被害を受けていなくても耐震補強が必要となっていたものなどもあります。いずれにしても市民生活の再建が困難をきわめていることと対比すると「大盤振る舞い」にちかい予算承認や事業認可です。

そもそも、100億円以上の事業は、市民の期待に応えたものではありません。大業界、大団体、大政党・大会派にずるずると押し出されるようにして、行政本来の役割を守りきれなかったのが、「震災関連事業」のすべてです。

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世に出された国の復興委員会の本音

「人間優先」できたのに

転換の機逃した

”便乗”開発

5年目の復興委員会

検証・阪神大震災@

 12月6日の毎日新聞トップ記事の見出しです。

 かねて復興委員会の内部の議論が紹介されてきました。とくに神戸空港をめぐる復興委員会の議論は、関心を集めてきました。470ページにわたる「議事録」を入手した毎日新聞のこの特集は、迫力があり、かつ詳細でした。

 「バブルの後でどこが変わったんだろう。地震が起こる前でも、こういう計画が出てきたんじゃないか」(堺屋太一氏)

 「産業優先から人間優先のまちづくりへ転換するチャンスだった。計画の立て方、哲学そのものがナンセンス」(一番ケ瀬康子氏)

 「庶民の暮らしの再建、復興に配慮が足りなかったことに今でもうらみを持っている」(後藤田正晴氏)と、各氏が語っているとおりです。

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人間優先へ変えない限り借金地獄から抜け出せない

 神戸市が発表している「神戸市一般会計収支試算」(ver.6)は、次のように述べています。

  •  平成11年度から今後10年間の収支見込みを試算した「一般会計財政収支試算」によれば、今後、毎年、500億円から600億円の財源が不足し、10年間の財源不足累計は、5,130億円に達する見通しとなっています。
  •  「お父さんの脅迫」バージョン6というわけです。お母さんは民営化を避けるためには、そして赤字再建団体転落を避けるためには、さらに「出てけ言わはったらどうすんの。このトシで」と考えて、協力の姿勢ありありです。

     積算の根拠を神戸市は次のように示しています。

    名目GDP 伸び率 〜12年度 0.5% 、13年度〜 2.0%  
    租税弾性値 市税=1.1%、地方交付税=1.2%  
    (歳入)
    市税 伸び率 〜12年度 0.55%、13年度〜 2.2%  
    地方交付税 伸び率 〜12年度 0.6% 、13年度〜 2.4% 公債元利償還分を別途加算
    国・県支出金 歳出連動  
    市債 歳出連動  
    譲与税・交付金 伸び率 〜12年度 0.55%、13年度〜 2.2%  
    使用料 伸び率 〜12年度 0.5% 、13年度〜 2.0%  
    諸収入 伸び率 歳出連動  
    (歳出)
    人件費 伸び率 〜12年度 0.6%、13年度〜 2.0% 退職手当を別途加算
    物件費等 伸び率 物件費は通常分を据置き  
    扶助費 伸び率 3.0%  
    投資的経費 11年度以降、1.602億円で据置き  
    公債費 市債発行額に応じて積み上げ  
    繰出金 国保・老健・再開発・市営住宅・地下鉄海岸線は別途加算、その他は据置き  
    貸付金 据置き  

     詳細な検討は、仕事に携わっている市の職員や、何よりも議会審議に委ねます。

     小手先の「リストラ策」と酷評しました。借金をこれ以上、毎年1,000億円ずつ重ねるわけには行かない。かといって、これをゼロにすることは構造上できない(ハコモノをつくれば必ず借金がついてくる。借金をゼロにするということは投資的経費をゼロにすることを意味するし、歳入で国・県支出金もゼロとなる)。公債発行を、つまり借金を500億円に減額すると、毎年500億円ずつの財源不足が生じる、というきわめて簡単明瞭、単純単細胞的な「収支試算」です。

     GDPや市税の伸び率もどうでしょう。わずかとはいえ、なお、「右肩上がり」を前提にして試算をしていますが、これは習慣であり、願望以外の何ものでもありません。

     普通会計でいうところの普通建設事業費を、減額する努力がかぎを握っています。「不況をどうする」「業界が反対する」まさにそのとおりです。しかし、ゼロにするのではなく急がずに、ゆっくりやっても事業は事業です。区画整理を例に取りましょう。

     もともと、壊さなければ建てなくてもよかったものまで壊してしまった後ですから、急げという声が絶えませんが、果たして実際はどうでしょう。「区画整理5年」「再開発10年」という勝手に決めた目標を住民に押しつけた経過があります。急がなければならないからコンサルに委託し、請負業者も高い値段をふっかけます。1年の事業を1年半で、あるいは3年の事業を5年で、というようにここでも「身の丈」にあった速度で事業を進めれば、単年度の建設費は圧縮できます。身の丈とは、手持ちの人材・今ある職員体制です。

    市長が言うコンパクトシティは駅前再開発のことですが、役所と市民のコンパクトな人材と能力で、身の丈に合った事業を進めれば、身の丈に合った財政運営ができることは、当然でしょう。焼却炉(クリーンセンター)建設にしても、住市総(住宅市街地総合整備事業)の一つ一つの民間マンションにしても、あるいは道路補修一つ取っても、同じことです。幹線道路をいち早く「見事に」復旧した一方で、震災でひび割れたままの生活道路を放置していることに、市民はあきれてはいますが。

     もちろん、福祉部門などは、こういう調子で事業を進めることはできません。だから、ある意味で「聖域」なのです。

     一番が瀬康子さんが言うように、「人間優先」へと仕組みを変えるなかで、財政再建は可能であり、人間優先社会へと神戸が変わらなければ財政再建も不可能です。

    未完

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    緊急提案

    1 まず借金体質から脱却すること
    2 残念なことですが「介護保険で福祉が営利産業へ変貌する時代」ですから、それを逆手にとって直営の、つまり神戸市営の福祉事業を興すこと
    3 開発事業を止めるには今が最適です。ポーアイU期などは、分譲を凍結し時期を区切って低価格で賃貸し、産業を興すこと
    4 あらゆる公共料金を、利用者の少ない時間帯や場所、また目的によって、値下げすること
    5 予算規模・歳出総額を圧縮すること、身の丈に合った財政運営にすること
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